大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和24年(つ)586号 判決

被告人

志賀光馬

外一名

主文

原判決を破棄する。

本件を大分地方裁判所竹田支部に差戻す。

理由

前略

第一点に対する判断

原判決が罪となるべき事実として認めたところは、その判決理由に提示するとおりであり、地方公共團体である村の村会議員等数名と共にその村の一般的な利害に関係を有する、分敎場の廃止問題、供米問題等につき、村長の職にある者の村政について批判した上、同村長を解職することにつき協議を遂げ、所定の選挙管理委員会長に宛てて提出すべき「宮城村長解職請求書」と題する村長リコール案の原稿を執筆起草し、これにより村長の解職請求をなさしむべくこれを小学校分敎場父兄会長の職にある者に交付する行爲は、法律に基く公務員の解職の請求に関する署名運動の基盤となるべき事項の協議に積極的に参加行動したものであつて、右は、昭和二十二年勅令第一号第十五條第一項にいわゆる政治上の活動にあたるものと解するのが相当であり、これと異る見解を前提とする論旨には賛し難い。

第四点に対する判断

原判決は事実認定の証拠として、他の証拠と共に、檢察廳における副田笹夫の第一回供述調書、同安部井八郎の第一回供述調書、同佐藤浩の第一、二回供述書、同菅一二三の第二回供述調書を採用しているが、これらの供述調書は、原審第一回公判期日に他の書面と共に証拠書類として檢察官からその取調べの請求をしたのに対し、これを証拠とすることに同意するかどうかにつき、被告人は、弁護人に讓ると述べ、弁護人は、右書類を証拠として取調べることには同意するが、被告人の供述と著しく異る書類については留保する旨を述べ、右各供述調書を証拠とすることに同意するかどうかについて、その後被告人若しくは弁護人から、何らの意思表示がなされることなくして証拠調べの手続が終了された事実は、原審第一回公判調書の記載によつて明らかである。右各供述調書に関する弁護人の陳述は、右各供述調書を証拠とすることに同意する趣旨であるか、同意しない趣旨であるか甚だ明確を欠くものであり、このような陳述を以て直ちに、証拠とすることに同意があつたものと解することは至難であり、結局右各供述調書に関しては、これを証拠とすることにつき、被告人若しくは弁護人の同意が得られなかつたものと解する外はない。從つて、これらの供述調書は刑事訴訟法第三百二十一條第一項第二号所定の事由ある場合にのみ、始めてその証拠能力が認められ、右のような事由を認むべき格別の事情のない本件において、原判決がこれを証拠として援用したのは、所論のように、訴訟手続に関する法令に違反し、証拠能力のない証拠に基ずいて罪となるべき事実を認定した違法があり、その法令違反は、判決に影響を及ぼすべきことが明らかであるので、この点に関する論旨は理由あり、原判決は刑事訴訟法第三百七十九條第三百九十七條により破棄を免れない。

以下省略

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例